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中国の新しい外商投資法

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改革開放40年の間の外商投資規制策の変遷

並びに新法のもとでの投資保護および投資管理

臼井隆行

概 要

2019年3月15日、中国で新しい外商投資法が成立した。外商投資法は2020年1月1日から施行されている。

外商投資法は第3章「投資保護」や第4章「投資管理」に画期的と言える新たな規定があるが、その文言をみると、簡潔で抽象的である。それぞれの条文が何を意味しているか、なぜそのような規定が設けられたのか、我々日本人が見ても、理解は困難である。例えば、外商投資法第21条は「自由」送金についての規定だとされる。しかし、中国で法律の専門家に尋ねても、この規定によっても無制限に自由に海外に送金できるようになることはないだろうという。では、どうしたら我々日本人に外商投資法が理解できるようになるのか?答えは、そのような規定が設けられるに至った、歴史的背景を振り返る中にあるであろう。

中国で改革開放が始まったのは1978年のことである。当時中国には会社法はおろか民法もなかった。これらの法律は市場経済のもとで初めて必要とされるもので、それまで完全な計画経済であった中国では必要なかったのである。改革開放を始めるにあたって、中国には資金も技術もなかった。そこで鄧小平をはじめ改革開放の初期の指導者たちは、市場経済国からの直接投資を中国本土へ誘致しようと考えた。しかし我々日本をはじめ市場経済国の企業は、権利義務が法律によって保障されていない国になど、投資できるものではない。このように、中国は、改革開放の初期に、外資を呼び込む必要に駆られて、いわゆる外資三法(外商投資企業に適用された3つの企業法)を制定したのである。中国には外資に対する期待と警戒があった。これら外資三法のもとでの中国の外資政策は、奨励策と制限策を組み合わせて行われてきた。

中国が外資を導入した改革開放はせいぜい40数年の期間であるが、改革開放40年は中国にとって激動の時代であった。そして、ほぼ10年毎に大きな変化があり、それが外資の規制にも色濃く反映された。そこで、この論稿では、改革開放40年をそれぞれ約10年ずつの4つの期間に分ける。第1期は、1978年から1992年までの、初期の実験と外商投資企業の基本形態の創出の時代(「試行錯誤」)。第2期は、1992年の鄧小平の「南巡」から2001年の「WTO加盟」までの約10年間(「急速な発展」)。第3期は2001年から2012年までの、北京オリンピック(2008年)を間に挟む、約10年間(「高レベル開放と保護主義」)。第4期は、2013年以降、習近平政権が始まってから、現在まで(「全面開放」)。その上で、それぞれの期間に奨励策や制限策がどのように変遷してきたかを見て行く。それぞれの期間に、米国からの批判やWTO加盟などの出来事によって、中国の外商投資政策や投資環境に大きな変更があった。

外商投資法は、外資立法をいわゆる「二重システムモデル」から「法典モデル」に移行させることを通じて、改革開放40年の外国からの投資に関する法制を集大成するものである。このような変遷を経てもなお残っている外資の奨励策や制限策がある。外商投資法は、なお残る外資の奨励策はいかに増進し、外資の制限策はいかに制約等するかについての、枠組みを示すものと言える。それは、とりわけ外商投資法の第3章「投資保護」および第4章「投資管理」において顕著である。外国投資家と外商投資企業は、第3章の投資保護の条項を、自らの利益を保護するための手段として用いることができるよう。また第4章の投資管理や附則からは、中国投資にあたり対中国政府の関係で注意すべきことを把握できるであろう。これらの規定は簡潔で抽象的であるが、皆様が、本稿により、これらの規定が設けられるに至った歴史的背景を理解し、各条項の趣旨を理解することを通じて、これらの規定を的確に解釈し、その施行の展開を将来にわたって見通すことができれば、望外の幸せである。

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