ブログ

4.6(i)’ 補助金の付与による国有企業の競争上の優位性とWTO、競争中立性

👉目次へ

3.4.9で中国の「国有企業問題」、とりわけ補助金の問題についてみた。

WTOの補助金および相殺措置に関する協定(SCM協定)の1.1条によれば、加盟国の領域における政府または公的機関(この協定において「政府」という。)が資金面で貢献していること、すなわち、(i)政府が資金の直接的な移転を伴う措置(例えば、贈与、貸付けおよび出資)、資金の直接的な移転の可能性を伴う措置または債務を伴う措置(例えば、債務保証)をとること、(ii)政府がその収入となるべきものを放棄しまたは徴収しないこと(例えば、税額控除等の財政による奨励)、(iii)政府が一般的な社会資本以外の物品若しくは役務を提供しまたは物品を購入すること、あるいは(iv)政府が資金調達機関に支払を行うこと、または政府が民間団体に対し、通常政府に属する任務であって(i)から(iii)までに規定するものの一若しくは二以上を遂行すること若しくは政府が通常とる措置と実質上異ならないものをとることを委託し若しくは指示することという条件が満たされる場合には、補助金は、存在するものとみなされる。

中国はWTOへの加盟時に、SCM協定に拘束されるようになった。

「公共団体」(public body)を解釈する場合、3つの概念的アプローチがある。

第一のアプローチ(政府による統制アプローチ)は、企業に対する政府の統制の有無が、そのような企業が「公的機関」であるかどうかを決定する基準であるとする。このアプローチは米国によって提唱され、EUにも支持されているため、特定の中国の国営企業(SOE)および国営商業銀行(SOCB)は、SCM協定の1.1条の意味で「公共団体」であるという結論が導かれる

第二のアプローチ(政府機能アプローチ)は、企業が政府機能を行使する場合に、その企業は「公的機関」であると捉えるもので、このアプローチは中国によって支持されている。

第三のアプローチ(政府機能を行使する政府機関のアプローチ)は、「政府機能を行使する権限を与えられ、行使する」企業は、「公的機関」に該当すると考える。このアプローチは、WTO上級委員会によって最終的に採用されたものだが、この法理によると、相当数の国有企業が、SCM協定の適用を受けるのを免れることができるという批判を受けている(たとえば、国有商業銀行による国有企業へのローンなど)[1]

また、中国は、WTOへの加盟の際の約束の中で、2000年までに赤字国有企業への補助金を廃止することに合意した[2]

中国は合意で出すことになっていた通知を期限までに出さず、ようやく2006年になって提出した。中国政府は2001年から2004年までに78の補助金プログラムがあったとはしたが、その年間の金額は十分に文書化されておらず、それゆえ貿易の歪みを十分評価できるものではなかった。この通知には中央政府による補助金と支援プログラムのみが含まれていた。商業銀行の政策貸付や国有企業に提供されるその他の財政支援はカバーしていなかった。中国政府は次の通知を2015年10月まで提出せず、このことは米国によって不十分なままだと批判され続けた[3]

SCM協定の1.1条の解釈およびコミットメントの履行に関する中国と他国との間での理解の不一致にもかかわらず、中国にも国有企業への補助金は競争中立の観点から避けるべきであるという見解もある。

2009年以降、OECDは競争の中立性に関する研究を開始し、大きな進展があった。 OECDは、2012年のレポートで、「経済市場において過度の競争優位性も過度の競争不利益性も受ける事業体がない場合には、競争中立性が達せられる」として、「競争中立性」の定義は、市場における様々な競合する企業をカバーするために、より一般的である必要があると主張した。このレポートは、政府の事業活動が市場で獲得し得る競争上の優位性に焦点をあわせており、多くの国が競争中立性に対処する際の強調点や実践を整理して、「競争の中立性」の次の8つの政策目標に要約している:(1)政府の事業活動のビジネスモデルの正当化、(2)直接費用の特定、(3)商業的収益、(4)公務義務の合理的な考慮、(5)税の中立性、(6)規制の中立性、(7)債務の中立性および直接補助金、(8)政府調達(競争の中立性の8つの政策目標は相互に関連しており、統一的に考える必要がある)。

国有企業の競争上の優位性の問題は、国有企業が社会的責任を果たすことに対する、政府の過剰な補償に起因することが多く、それは債務免除、税制、規制緩和、政府調達の際の優遇などの形で現れることが多い。競争の中立性の観点からは、これらの形で補償するのはよい選択ではないと考えられる。たとえば、競争の中立性は、多くの場合、社会的責任を果たす国有企業に対して補償するのではなく、社会的責任の活動自体に対して補償することによってより簡単に達成できる[4]。そして、社会的責任の活動の主体には、外商投資企業をはじめ民間企業も含まれるのである。

👉3.4.9 13.1


[1] Marc Benitah, China’s “Industrial Subsidies”: Is the WTO’s AB Jurisprudence About the Definition of a “Public Body” an Instance of the Worst Kind of Judicial Activism?, International Economic Law and Policy Blog (2019) https://worldtradelaw.typepad.com/ielpblog/2019/05/chinas-industrial-subsidies-is-the-wtos-ab-jurisprudence-about-definition-of-a-public-body-an-instan.html

[2] World Trade Organization (2002b), See Richard S. Eckaus, China’s Exports, Subsidies To State Owned Enterprises and the WTO, Massachusetts Institute of Technology Department of Economics Working Paper Series Working Paper 04-35 (2004) 10, dspace.mit.edu/bitstream/handle/1721.1/63411/chinasexportssub00ecka.pdf;sequence=1

[3] Andrea Durkin, Feeding China’s State-Owned Enterprises With Government’s Cash (2019) https://tradevistas.org/feeding-chinas-state-owned-enterprises/

[4] (宋)

関連記事

  1. 5.5 (b-1)’ VIE 問題に対する政府機関の慎重化
  2. 12.2 中外合弁経営企業法と会社法の違い
  3. 5.7 (d)’の投注差に関する規制のさらなる複雑化
  4. 8.4 合法性審査と公平競争審査(外商投資法第24条)
  5. 3.2.2 (b) 海外からの外貨借入の容易性
  6. 6.7 (f-1)’ 外資によるM&Aの独禁審査が独禁…
  7. 1.3 「法典システムモデル」
  8. 6.4 国内企業の(b)国外からの外貨建て借入に関する規制緩和
PAGE TOP