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外商投資法の、投資保護と題された、第3章の第22条から第27条および第16条は、外国投資家と外商投資企業が、特にまだ残存する制限策に関する問題に対して、その利益を保護し促進するための道具として活用することができる。
8.1 収用制限条項(外商投資法第20条)
外商投資法第20条は以下のように規定する:
国は外国投資家の投資に対し、収用を実行しない。
特殊な状況において、国は、公共の利益のために必要であるとき、法律の規定に基づき、外国投資家の投資に対し、収用もしくは公共使用を実行することができる。
収用、公共使用は、法が定めるプロセスに基づき行い、且つ遅滞なく公平で合理的な補償を与えなければならない。
第20条は、3.4.10でみた、(j)’収用または公共使用の可能性に関連する。外資三法の外商独資企業法第5条や中外合弁経営企業法第2条などを承継するものである。
「特別な状況」と「公共の利益」の下でのみ行うことができるという点では、基本的に外資三法と同じである。外商投資法は、「法律の規定に基づ」いている必要があると付け加えている。法律の定める手続(外資三法では「法的手続き」という用語が用いられる)の下で実施されなければならないという点で、外資三法と共通している。
主権国家はその国内の財産に対して、外国投資家のものを含む財産を収用する権利があるが、一定の条件を満たす必要がある。国際的投資協定には、一般に、収用は公共の利益の目的ためのものでなければならず、外国投資家に対して非差別的な待遇を取り、補償し、法律の手順に従って行わなければならない、と定められている[1]。
また、外商投資法実施条例第21条は、公共の利益のために収用できる具体的状況については、法律により明確に規定しなければならないと強調する。
国は、外国投資者の投資に対する収用を行わない。
特殊な場合において、国は、公益の必要性のため、法律の規定に従って外国投資者の投資に対する収用を実施するときは、法定の手続に従い、差別的ではない方法をもってこれを行い、収用される投資の市場価値に従って遅滞なく補償を支給するものとする。外国投資者は、収用の決定に服しないときは、法により行政不服審査を申請し、または行政訴訟を提起することができる。
これに関して、民法典の民法総則第117条は以下のように定める:
公共の利益の必要のため、法律に定める権限および手続に従い不動産または動産を収用し、公共使用する場合は、公平かつ合理的な補償を行わなければならない。
ここでの「公平かつ合理的な補償」とは、補償される金額が公共の観点から公正かつ合理的であることを意味すると解される。一般に、同一または類似の財産の市場価格が、補償を計算するための基礎として使用されるべきである。補償には、実物、金銭的補償、または実物+金銭的補償がある。[2]
2021年1月1日から施行される、民法典の物権編のもとで、収用と公共使用はより詳細に規定され、収用と公共使用とは個別に扱われる。
民法典物権編第243条第1項は収用についてより詳細に定める:
公共の利益の必要のため、法律に定める権限および手続に従い、集団所有の土地、単位および個人の建物およびその他の不動産を収用することができる。
民法第243条第1項からすると、中国での収用には次の特徴がある。第一に、法律の定める収用手続が守られている限り、所有者の同意なしに、長期間、財産の所有権(土地使用権を含む)を移転することが認められる、強力な行政行為である。第二に、収用の対象は不動産に限定され、動産は含まれない。これは、動産は通常代替可能であり、唯一性を有しないため、国が強制的にその取得をするために公権力を行使する必要はないためである。最後に、収用行為の合法性を確保するために、収用には3つの厳格な制限が課される。(i)収用の範囲は、公共の利益の必要によらなければならない(ii)収用の権限と手続は、法律の規定に厳密に従っていなければならない。(iii)収用と引き換えに公正かつ合理的な補償が与えられなければならない[3]。
民法典物権編第245条は公共使用についてさらに規定する:
応急措置、災害救助、感染症対策等の緊急の必要のため、法律に定める権限および手続に従い、単位、個人の不動産または動産を公共使用することができる。公用使用された不動産または動産の使用後は、被公共使用者に返還しなければならない。単位、個人の不動産または動産が公共使用され、または公共使用後に損傷、滅失した場合は、補償を与えなければならない。
民法第245条からすると、中国での公共使用には次のような特徴がある。第1に、公共使用するには緊急事態にある必要があり、公益に基づく必要があるだけでなく、危険防止、災害、または軍事行動などの緊急事態の必要性など、急迫しやむを得ない事情が必要となる。したがって、公共使用の範囲は収用よりも狭くなる。第2に、公共使用には臨時使用の性質あり、権利者の所有権を消滅または移転する目的とするものではなく、また必ずしも所有権の消滅または移転をもたらすものでもない。それは、権利者の動産または不動産を臨時に使用する特性を持ち、一定の期間内の臨時の使用であることが強調される。公共使用が終了した後、目的物は補償とともに返却され、ここでの補償は2つの部分から成る。1つは臨時使用期間中の使用価値の補償であり、もう1つは物の損傷または破損した部分の価値の補償である。最後に、公共使用の対象は動産または不動のどちらかであり、その対象の範囲は収用よりも広く、特に公共使用の対象が不動でない場合、その使用の臨時性と使用後に目的物を返還できる性質ゆえに、公共使用は収用とは大きく異なる[4]。
外商投資法第20条第1項は、「国は外国投資家の投資に対し、収用を実行しない。」と規定する。
外商投資法施行条例第21条も、「収用される投資の市場価値に従って遅滞なく補償を支給するものとする」と規定する。
収用および公共使用の補償に関して、国際投資法の理論には、完全補償、適切な補償および非補償の3つがある。
完全補償の代表はハルの3原則であり、補償は「完全、適時かつ効果的」である必要があることを強調する。中国の法学専門家の多くはハルの3原則について留保をしているが、中国が署名した二国間投資協定および自由貿易協定の投資に関する章の多くの条項は「完全、適時かつ効果的」に非常に近いものであることが認識されている[5]。
例えば、投資の奨励および相互保護に関する日本国と中華人民共和国との聞の協定(日中投資協定)第5条第3項は以下のように規定する:
2にいう補償は、2 にいう収用、国有化または収用若しくは国有化と類似の効果を有するその他の措置がとられなかったとしたならば当該国民および会社が置かれたであろう財産状況と同一の状況に当該国民および会社を置くものでなければならない。補償は、遅滞なく行われなければならない。補償は、実際に換価をすることのできるもので行われなければならず、かつ、補償の移転は、自由でなければならない(その換価または移転に当たって用いる外国為替相場は、補償の価額が決定された日の相場によるものとする。)。
収用・公共使用・補償の問題については、民法典の民法総則と物権編等との整合性を保つとともに、現在締結され、将来締結される、二国間投資協定・自由貿易協定の約束および義務が尊重されるべきである。外国投資家は、中国と自国の間の二国間投資協定の内容が外商投資法よりも有利かどうかを確認する必要がある。
[1] (李)
[2] 张新宝, <《中华人民共和国民法总则》释义> 231 (2019) ,中国人民大学出版社 参照
[3] (張) 232
[4] (張) 232-3
[5] 崔凡,蔡开明, <《中华人民共和国外商投资法》初探> 3上海对外经贸大学学报 14 (2013)