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8.5 優遇措置と履行責任(外商投資法第25条)

外商投資法第25条は以下のように定める:

地方の各級人民政府およびその関係部門は、外国投資家および外商投資企業に対し、法に基づき打ち出した政策約束の事項および法に基づいて締結した各種契約を履行しなければならない。

国の利益および社会公共の利益により、政策約束の事項、契約の約定を変更する必要がある場合、法が定める権限およびプロセスに基づきこれを行い、且つ法に基づき外国投資家および外商投資企業がこれにより被った損失について補償を与えなければならない。

地方政府は投資誘致段階で優遇措置を約束する動機があるが、投資誘致後、約束や契約が履行されない場合がある。このような問題を引き起こした原因は二つあるかもしれない。一つには法定の権限を超えて約束がなされた。もう一つには地方政府の官吏が企業の利益を侵害したり損ねたりした。

国務院は地方政府に契約書の遵守を促すとともに、法定の権限を超えたため履行できない優遇政策を逐次整理しようとした。

このため、2014年12月、国務院は「税金優遇政策の整理と規範化に関する通知」[关于清理规范税收等优惠政策的通知](国发62号文)を発表した。しかし、実際の整理作業は予想より複雑で、整理作業は順調に行われていなかった。

2015年5月に公布された「国務院の税収等優遇政策に関する事項の通知」[国务院关于税收等优惠政策相关事项的通知](25号文)では、各地方と企業が締結した契約に規定された優遇政策は引き続き有効であり、既に実行された政策は遡及的に否定されないこととされている。以前規定された税制その他の優遇政策は、今後別途特別なアレンジをした上で整理することとされた。

2016年6月14日、国務院は「市場体系建設における公正競争審査制度の確立に関する意見」[关于在市场体系建设中建立公平竞争审查制度的意见]を発表し、8.2で述べた公正競争審査制度の構築を要求した。その中で特に「違法な特定経営者に対して優遇政策を与えてはならない」と言及した。

2016年11月27日に発表された「中共中央、国務院の財産権保護制度の法律による財産権保護に関する意見」[中共中央国务院关于完善产权保护制度依法保护产权的意见]は、地方の各級政府および関係部門は、社会および行政の客体となる人に対して法律に基づいてなした政策約束を厳格に実行し、企業誘致、政府と社会資本協力などの活動の中で投資主体と法律に基づいて締結した各種契約を誠実に履行し、政府の交代、指導者交替などの理由で違約、契約破棄によって合法的権益を侵害した場合、法律および経済上の責任を負担しなければならない、とする。

2017年1月に発表された「対外開放の拡大と外資の積極的な利用に関する若干の措置に関する通知」[关于扩大对外开放积极利用外资若干措施的通知]では、地方政府が法定の管轄範囲内で外資を誘致する優遇政策を制定し、就業、経済発展および技術革新に重大な貢献があるプロジェクトを支援することができると定められた。ここ数年来、関連法律法規と政策上の絶えざる模索によって、2本の超えてはならない線が画定された。一つは優遇措置は法定の権限を超えてはならない、というものであり、もう一つは政府は約束を守らなければならないというものである[1]

これらの通知と意見に基づいて、外商投資法第25条が規定され、地方政府は法律に基づいてした政策約束と法律に基づいて締結した各種契約を厳格に履行しなければならない。国や社会的利益によりそれらを変更する必要がある場合には、法に基づき補償しなければならない。

外商投資法実施条例第27条は以下のように定める:

外商投資法第25条における政策約束とは、地方各級人民政府およびその関連部門が法定の権限内において、外国投資者と外商投資企業の当該地区における投資が適用を受ける支援政策、享受する優遇措置と利便的な条件などについて交わす書面の約束をいう。政策約束の内容は、法律・法規の規定に適合しなければならないものとする。

この第27条の規定により、外国投資家と外商投資企業は、いかなる政策約束も書面で行わなければならない。口頭約束は裁判所から支持されない。

外商投資法実施条例第28条は以下のように定める:

地方各級の人民政府およびその関連部門は、外国投資者と外商投資企業に対して法により行う政策約束および法により締結する各種の契約を履行するものとし、行政区画の調整、政府の代替わり、機構または職能の調整、関係責任者の交代などを理由に、違約し、または契約を破棄してはならない。国の利益または社会公益の必要性により政策約束または契約の取決めを変更するときは、法定の権限と手続に従ってこれを行い、かつ、法により外国投資者と外商投資企業がとれにより被る損失に対して遅滞なく公平かつ合理的な補償を与えるものとする。

地方人民政府およびその関連部門が外商投資法実施条例の第28条の規定に反して契約違反した場合、外国投資家に与えた損失については、賠償責任を負わなければならない。

さらに解決しにくい問題の一つは、もし地方政府が法定の権限を超えて投資家に約束したり、保証したり、契約した場合には、どのようなことが起きるかである。このような状況では、関連する約束、保証、契約は裁判所の支持を得ることが困難である(例として、中国銀行香港支店と遼寧省政府、葫芦島亜鉛工場間の担保協議に関する紛争の控訴事件[中国银行(香港)有限公司与辽宁省人民政府、葫芦岛锌厂保证合同纠纷上诉案][2])。外商投資法と外商投資法実施条例の文言からすると、このことは変わりそうにない。外国投資家は、現地政府との約束、保証、または契約が法定の権限内であるかを、それらが重要であればあるほど、きちんと現地の弁護士から法律意見書を得て確認すべきである。


[1] (崔 & 蔡)参照

[2] (2014)民四终字第37号。この事件では、1996年に遼寧省政府が銀行に念書を発行した(注:「担保法」第8条の規定により、国家機関は、外国政府または国際経済組織の貸付または転貸以外に対しては、保証人となることができない)。念書には、現地会社が銀行借入から生じた債務を返済できない場合、遼寧省政府は借手が銀行に負う債務の解決に協力し、銀行がいかなる経済的損失も被らないようにする、とされていた。銀行は念書を保証書だと主張した。しかし、最高人民法院は、その名称と内容から見て、法律上の保証ではないと認定した。

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